The Curious Case of Benjamin Button

adf2009-02-08


僕が最も好きな映画監督、デヴィッド・フィンチャー監督の最新作にして大傑作!前作『ゾディアック』はDVDで鑑賞して、激しく劇場に行かなかったことを後悔したので、半分義務感で観たのだけれど3時間近い上映時間を全く感じさせない、早くも今年のベスト映画!いや、マジで。

既に多くの批評家やレビューで書かれているとおり、老人の肉体で生まれ年を重ねるごとに若返っていくという突飛な設定以外、主人公ベンジャミンの人生は、それなりに起伏に飛んでいるものの概ね平坦で、拍子抜けするほど普通に描かれている。一部の批評家はこのことをネガティブに捉えたようだけれど、過剰にドラマティックではない非映画的な人生を極めて映画的な手法で映像化*1することにより、魅力的なものとして表現することこそ、この映画で監督が目指したことであり、本作のメインテーマの一つだと思う。

同時に監督はベンジャミンの人生を通じて、観客誰もがその人生の中で通るであろう場面やリアルな心情*2追体験させることで、誰のどのような人生も、あらゆる人生は魅力的で素晴らしいものだと伝えているようにも感じた。

良い台詞も多くあって、クィーニーが繰り返し使う「人生には何が起こるか分からない」という台詞や船長の今際に残す死についての言葉が特に印象的。僕も印象的な今際の言葉を今から用意しておきたい。とびっきりくだらないやつを。

*1:冒頭の戦場の兵士の人生が巻き戻っていく、印象的で美しいシーンや、雷に7回撃たれた老人のコント的な回想シーン、いくつもの偶然の重なりから交通事故の原因を説明するスタイリッシュで芸術的なシーンは、どれも映像表現によって台詞による説明だけでは決して得ることのできない魅力を持っていて、とにかく映像による演出にこだわるフィンチャー監督の真骨頂って感じ。

*2:真夜中に聞こえてくる家族や友の寝息に包まれたときの何とも言えない安心感、初めて親抜きで遠出したときの冒険に対する興奮と不安、迷子になって母親に会えたときの安堵感、身近な人の死や友との別れ、初仕事の厳しさ、金を稼ぐことの意味、性とアルコールへの目覚め、大人の女性への憧れ、真夜中のホテルで貪る秘密の夜食と情事の魅力、戦争の不条理、数年ぶりの実家や故郷の懐かしさ、都会に染まった幼なじみへの戸惑い、自己のアイデンティティの発見、父、母との死別、嫉妬、愛する人との享楽的な生活、親になることの喜びと恐れ、愛するものとの別れ、そして再会と枚挙に暇が無い。