ヒーローショー

adf2010-07-01


こちトラ自腹じゃ」で有名な井筒監督の最新作。彼のフィルモグラフィーは特別僕の食指に触れるものではなかったけど、TwitterのTL上での評判がとても良かったので映画の日に鑑賞。事前の情報や監督のインタビューから『暴力』そのものをテーマにした「ファニーゲーム」とか「息もできない」みたいな映画を想像していたけど、暴力は「ドロップ」のアンチテーゼとしての役割は果たしているものの、物語のテーマはむしろ自らの身の丈に合わない『調子に乗った行動』や『落としどころを考えない勢いだけの行動』が迎える結末にこそあるように思えた。

本作に思い入れの強い人*1は、ラストシーンに言及していることが多く、エンディングテーマの選曲を含めて様々な解釈がなされている。僕の解釈は、井筒監督はその優しさ故に主人公の末路をはっきりと描くことを避けたのだと思う。ある意味で結論を投げたことにより、逆説的に物語に深みと多くの解釈が生じ、だからこそ多くの共感を得ることができたのじゃないかというのが僕の考え。

ミヒャエル・ハネケや、ヤン・イクチュン、クリント・イーストウッドが本作の監督だったら、暴力自体を生々しくまざまざと見せつけるように描写し、結末についても残酷に描いていたような気がする。彼らは冷酷で性格悪いもの。でも個人的には性格の悪い人の作った映画の方が好みなので、自分の性格は決して良いわけではないということが分かったのが収穫。

ちなみに主演のジャルジャルの2人はもちろん、鬼丸兄弟とか、大学生とその兄貴とかのそこにいるリアルな存在感はすごくて、この辺りのキャスティングと演技指導は見事。特にヒロインを演じるちすんさんの薄幸エロスっぷりは素晴らしくて、無駄にエロいキスシーンや、喪服着せちゃうのも含めて、井筒イズムを感じた。

*1:一部の映画批評家さんや有名ブロガーの人も含む。