The Mist

adf2008-05-11


スティーヴン・キング原作、盟友*1フランク・ダラボンが監督・脚本を手がけたホラー映画。「大嵐の被害の爪痕が残るアメリカの片田舎のスーパーマーケットを舞台に、立ちこめる謎の霧と伴に恐ろしい災厄が人々を襲う」というメインプロットだけを見ると、舞台こそ全然違うものの少し前に公開されたクローバーフィールドと同じ種類の映画みたいだけれど、映画としての構造は割と大きく異なっている。

その特殊な演出方法を除けばクローバーフィールドは基本的にはヒーロー(主人公)とヒロインを中心にスペクタルが展開される典型的なハリウッド大作映画*2文法に乗っ取っていて、危機的な状況を観客に疑似体験させつつもストーリーの主軸はあくまでもヒーローとヒロインの関係にあるのだけれど、ミストのストーリーの主軸は危機的(絶望的)状況とそれによってもたらされる恐怖そのものにある。クローバーフィールドがパニック映画だったのに対して、原作がそうであるようにミストは割と純粋なホラー映画だった。

なのでクローバーフィールドはビデオカメラ視点に固定されているという特殊な演出方法のせいもあるけれど、基本的には登場人物が何を考えているのかが分かりづらく、主人公への感情移入も難しいのに対して、ミストでは心理描写を丹念に積み重ねることにより、観客を主人公サイドへ強く感情移入させることに成功している。そのため、観客は主人公の感情に深く共感し、その行動を正当なものだと信じるのだけれど、行動によってもたらされる結果はことごとく裏目に出てしまい、悪い方向に進んでしまう。正しいと信じる行動の結果が報われず、状況がどんどん悪くなることによる徹底した絶望を、観客は味わうことになるのです。

劇中、登場人物の一人が「俺の信じる神は、そんなに残虐で血に飢えていない」的なニュアンスの台詞を言う場面があるのだけれど、この映画における神である監督・脚本のダラボンさんは残虐でしかもすごく意地が悪い。登場人物たちを襲う不幸の数々は情け容赦なくて、しかも不幸な目に遭うのは観客が感情移入する『いいひと』ばかりで、全くカタルシスがない。ダラボンさん良い意味で性格悪すぎ*3

その他にも、人々は絶望的な状態に置かれると、まず解決できそうなシンプルでイージーな問題を解決することで安心しようとする(解決することがあまり意味のないものであったとしても)とか、恐怖の下にある人間は恐怖を解消してくれる存在に対しすがり容易に煽動されるとか、印象に残るシーンや台詞は数多くあって個人的にはダラボンさんの最高傑作だと思うので、ホラー映画に耐性があって精神に余裕のある人は観れば良いと思う。観てブルー。

*1:パンヤ

*2:代表作はタイタニック

*3:同じく性格の悪いクリエイターであるキングさんと仲良いのも分かる気がします。前田有一さんの超映画批評ではこの辺りの展開は神の元に平等であるはずの人間の傲慢さを揶揄していると書かれていたけど、単にダラボンさんの性格が良い意味で悪いだけだと思う