The Dark Knight

adf2008-08-10


前作Batman Beginsから新たにスタートしたクリストファー・ノーラン監督によるバットマン映画の2作目、大傑作。前作はDVDで鑑賞したけれど、正直あまり高く評価はしていなかった。極力荒唐無稽な表現やマンガチックすぎる設定を排して、現実的でリアルなバットマンを作り上げようとしていたのは理解できたけれど、第1作目の役割が、超能力は持たないものの外見や内面も十分非現実的*1なダークヒーローの出生を語ることだったために、現実的な部分と非現実的な部分が混在し、非現実的な部分*2は逆に強調されてしまい、現実に配慮するあまり見せ場なはずのアメコミらしい部分はいまいち地味*3になってしまっていたから。

このあたりは本作ではきっちり修正されていて、リアルと非リアルのバランスは丁度良い塩梅で、アメコミチックな演出部分もきっちり格好良い*4。でも本作の魅力はそういったフィクショナルな部分よりも寧ろ、監督の演出手腕と出演者達の高い演技力によって、各キャラクターの内面を深く掘り下げ、映像の力によって鮮やかに描き出す、極めて映画的な部分*5だと思う。

特に色々なメディアで散々語られていることだけれど、故ヒース・レジャーはその狂気の演技力*6でジョーカーそのもの*7をパーフェクトに演じていて、これを超えるジョーカーは未来永劫存在しないとさえ思えるぐらい衝撃的。

ノーラン監督自身もこのキャラクターに対する思い入れが最も強い思い入れが強いのは明らかで、映画の冒頭から彼が物語から退場するまで、ジョーカーと彼の狂気への演出は一貫して超ハイクオリティー*8。白塗りメイクのお肌へのノリが分かるくらいのアップでジョーカーの常軌を逸した表情をスクリーン一杯に映し出したり、あの独特な口調と声色に被せるかのようにノイズのような音楽を流すことで、ジョーカーの狂気は強調され、ジョーカー自身も恐ろしくも魅力的に描かれている。

その反面クリスチャン・ベール演じるバットマンは、主役としてきっちりと物語を受け止めているのだけれど、ジョーカーに比べると若干魅力が薄いのも確か。本作のもう一人の主人公であるハービー・デント検事も本作のテーマに関わる重要な役柄*9をしっかり担っているのだけれど、ジョーカーのそれとは色々な意味で別格な感じ。とは言え、ラストシーンにおけるバットマンの決断は、人間(個人)ではないヒーローとしてのそれ*10であり、個人的には最もぐっときた*11シーンだった。

あと、どうでもいいけどモーガン・フリーマンは説得力ありすぎ*12る。

*1:だからこそ魅力あるとも言えるのかも。普通の大富豪はコスプレして悪人やっつけたりしないもの

*2:何故かチベットで忍術を習ったりするあたり。ニンともかんとも

*3:単なる装甲車なバットモービルとかバットモービルとか

*4:バットモービルは相変わらずだけれど、バットポッドは超クール

*5:言い換えれば映画作品としてのクォリティーの高さ

*6:Brokeback Mountainの時も、本物の田舎のカウボーイがたまたま映画に出ているようにしか見えなかったけれど、本作でもふざけているのにカリスマと恐怖を感じるしゃべり方や表情、歩き方に至るまで最恐最悪の狂人ジョーカーそのものであり、ちょっと鳥肌立っちゃったよ。できることなら中年とか老人となった時にでどんな役を演じるのかが見たかった。

*7:ご本人さん!

*8:MementoやInsomniaを観れば分かるように、元々ノーラン監督は役者から狂気を感じさせる演技を引き出したり、キャラクターの内面を掘り下げるような内省的な作品が得意なタイプの監督みたい

*9:表のデント検事と裏のバットマンの対比だとか、正義と悪、正気と狂気は表裏一体であることを現し、互いに一方が存在しなければ成立しない

*10:悪の信奉者ジョーカーに対する正義の信奉者でしかなかったバットマンが、本当の意味でのヒーローとなったと言える

*11:スパイダーマン1作目のラストシーンとか、個人的にヒロイズム溢れる展開に弱い

*12:あの口調なら何を言われても信用してしまう。例:「明日から君が私の代わりに神様だ。」