The Wrestler

adf2009-06-15


ダーレン・アロノフスキー監督がミッキー・ロークを主演に迎え、かつての大人気プロレスラーの晩年を描いた映画にして大傑作。

本作では、ドキュメンタリー風の主に単一視点からの手持ちカメラ*1は常にローク演じるランディ・"ザ・ラム"・ロビンソンを捉えていて、ひたすら彼の日常と人生を描写することに費やされる。

映画が始まってすぐに、プロレス/レスラーでいることが老いたランディーにとって金銭的*2にも肉体的*3にも大きな負担となっていることが分かる。結局は肉体的な負担の方が原因となって、ランディはプロレスをやめざる得なくなり、彼はレスラーではない年相応の人間らしい人生*4を取り戻していくのだけれど、その表情からは明らかに無理しているのが見て取れる。

骨の髄までレスラーなランディはセックス、ドラッグ、ロックンロール(80年代限定)と、そして何よりも自らの名をチャントするファンの中でリングに立つことの快感を忘れることができずに、職を失い、取り戻したはずの娘の信頼を永遠に失い、やっと自分に振り向いた愛する人も自らの意思で振り切る*5と、自らのエゴ*6のためにレスラーとしての居場所に戻って行く。自らの命さえも犠牲にして。

帰りの電車で、ケータイのニュースサイトからプロレスラー三沢さんの訃報を知った。僕自身、彼に特別な思い入れがある訳じゃないけど、観た映画とシンクロしたせいかハートに響いた。

*1:最近割とありがちなあれ、早くも廃れた感もなくはない

*2:後述の薬代とか、ルックス命のレスラーに欠かせない美容院とか日焼けマシーンの費用とか、それにトレーニングや週末の試合のために定職につくこともできないし、もちろんインディーズのプロレスの試合から得られる収入なんて雀の涙だ

*3:年齢からくる肉体の衰えにあがない、試合の度にケガやあらゆる内蔵へのダメージを負うことはもちろん、ステロイドや痛み止めなど大量に継続的に薬オタクになるぐらい接種し続けることによる副作用の影響も甚大

*4:憎まれていた娘と和解したり、場末のストリッパーとデートしたり、スーパーの総菜売り場でフルタイムで働くのも以外と悪くないと思い始めたり

*5:物語の終盤、バックステージでの二人のシークエンス(ランディの独白)は素晴らしすぎて思わず涙ぐんだ

*6:家族や愛する人のためではなく、そしてファンのためでさえなく、ランディは自らのためだけにリングに上がる。決して美談ではないし、人として間違っているかもしれないけれど、その姿はジーザスのように尊く、同時に堪らなく格好良い