母なる証明

adf2009-12-13


韓国の奇才、ポン・ジュノ監督の新作。各所での好評価につられて観に行ったけど、マイオールタイムベストに数えられるような、凄い映画だった。

僕にとって初ポン・ジュノ映画だったので、もしかするとポン・ジュノ映画に共通する特徴なのかもしれないけど、とにかく顔が印象的で、顔の力に圧倒されてしまう。感情の込められた表情だけでなく、それぞれの登場人物が背負う人生や業が刻まれた『顔』そのものの迫力を、ポン・ジュノ監督は役者陣から引き出すことに成功している。特に母親を演じるキム・ヘジャの顔は、見るものの感情を直接揺さぶるかのような強烈な力を持っており、気がつくとスクリーンを見つめる僕は無意識に口をあんぐりと開いていた。

本作の基本構造は『業』をテーマとした寓話的なもので、そのメッセージは複雑なようで単純そうにも見え、しかし活字で語ることは恐ろしく困難*1である。ポン・ジュノ監督は映画というメディア自体の持つ力を使い、この高いハードルを越え、一言で結論づけることのできない、幾つもの側面を持つ人生そのもののようなメッセージを観客に届けることに成功している。届いた観客としては「どう感じたら良いんだ‥」と戸惑うことになるけど、その戸惑いは個人的には珍しくて良い体験だと感じた。

テーマは万人受けするものじゃないけど、きっちり『おもしろい』ので、娯楽映画としてのクオリティーは極めて高い。ポン・ジュノ監督は映画を作ることにかけては文字通りの天才らしくて、チンピラコメディー映画からJホラー、サスペンスまで様々な要素を取り入れつつも、パロディーにおちいることなく自分の中で消化し、個々のシーンはそれ自体が超高クオリティーなコメディーだったり、ホラーだったり、サスペンスだったりするのに最終的にはポン・ジュノ映画というワン&オンリーなものとして成立させている。

ほとんど全てのシーンが素晴らしいけど、特に冒頭のシーンとラストのシーンは凄すぎ*2て、映画が終わった後、劇場が明るくなり始めてからもしばらく椅子から立ち上がることができなかった。

僕の斜め後ろの席に座った、ウォンビン目当てと思われる、いかにも韓流ファンなおばさまは、映画の後に僕が席を立った時にはもういなかったけど、彼女は大丈夫だったのかが少し心配。

*1:とてもじゃないけど僕の筆力で語ることができない

*2:良いとか悪いとかじゃなくて凄いとしか言いようがない