District 9

adf2010-04-23


ハリウッドSF映画としては低予算ながら、映画ファンやブロガーの支持を集め、メディアからも注目された上、アカデミー賞にまでノミネートされちゃった話題作。各所での絶賛に相応しい、素晴らしい映画だった。

本作のメインテーマは『差別』であり、映画を通して『差別』に至る感情を観客に追体験させることで、その本質を描き出している。本作が稀有なのは、某映画博徒の評論にあったように、エンターテイメント作品として極めて高いクオリティーを持ちながら、上述のヘビー&ディープなメッセージを伝えることに成功している点*1にあると思う。これが成功しているのは、本作における大胆な視点の変化が驚く程スムーズになされているからであり、脚本や演出の完成度が異常なくらいハイレベルだから。

エビ星人の生理的な嫌悪感を持つようなルックス*2や質感*3、知能が低く粗暴で行動理由が理解不能な感じとかがモキュメンタリー風の演出で語られる中、The小役人な主人公ヴィカス*4のエビ星人に対する行動の数々を「仕方ないこと」だったり、あまつさえ「(どちらかというと)良きこと」として観客に思わせ、ある変化をきっかけにエビ星人側(差別される側)の視点に立つことで、ヴィカスの行動が差別される側からはどのようなものだったかを衝撃を持って観客に思い知らせるあたり鳥肌立っちゃう感じ。あと、これも各所で既に語られていることではあるけど、エビ星人が最後まで人間からは理解不能な存在として描かれていて、「最終的には互いに分かりあえる存在だから、差別は良くない(言い換えると、分かりあえないなら差別も仕方ない)」という安易な結論に落ち着かないところも素晴らしかった。

テーマやメッセージ以外のエンターテイメント要素も、バディムービー(エビ星人と地球人の友情)、改造人間(?)の悲哀、戦闘ロボット操縦(シンクロ)、凡人の人生でたった1度の勇気爆発、みたいな男泣きシークエンスが熱い!純粋なSFとしてみると、デザイン面で新鮮味に多少欠ける部分があるものの、エビ星人のルックス(平成ライダー)や戦闘ロボットの設定(ミサイルの弾道とかまで!)等に日本のアニメや特撮の影響が強く現れていて、アバターのそれより全然クールだった。

ところでエビ星人が生理的に嫌悪されていることを現すエピソードとして、彼らから悪臭がするという設定が興味深い。確かに差別が形成される際、ニオイは極めて重要なファクターとなることが多い。テレビで恵まれない浮浪者や難民の姿に涙する人であっても、目の前の恵まれないものから発せられる悪臭には思わず顔をしかめてしまうかもしれない。映画がよりリアルな体験を観客に提供するためには、3Dよりもスクリーンからニオイのする映画館を普及させるべきだと思った。ゾンビ映画とか観れなくなっちゃいそうだけど。

*1:社会派だったり、極度にサブカル寄りなマニアックな作品ではなく、メジャーなエンタメとして存在している

*2:触覚とかカラーリングとか

*3:ヌルヌルでグチャグチャっぽい感じ

*4:トム・グリーン似て蝶