さんかく

adf2010-08-26

僕が今最も好きな日本人映画監督こと、吉田恵輔監督の最新作。吉田監督の映画は「机のなかみ」、「純喫茶磯辺」、本作と、3作とも観たけど全ての作品に共通しているのが、登場人物がことごとくダメな人で、男は性欲で、女は情で、より(洒落にならないくらい)ダメになっちゃうところ。

本作でも、精神年齢が低くて今だにヤンキー趣味全開の三十路のダメ男*1が、彼女*2の中学生の妹*3へのリビドーを抑えられず暴走、同棲していた彼女と別れて女子中学生相手に本気でアプローチし、遂にはストーカー化しちゃうという情けなすぎる展開が描かれる。劇中で本人が後輩に語るように、百瀬は別にロリコンであったわけではなく、でも桃に心の底から惚れていたわけでもない。彼が桃に惹かれた理由はもっとシンプルで、ボインで可愛い女子中学生が彼女の妹でしかもひとつ屋根の下で無防備な格好で暮らしているっていうビジュアル&シチュエーション*4にリビドーが刺激された*5からにすぎない。だから物語の前半の百瀬の桃への視線*6は、ボディパーツ*7に異常にフォーカスしたフェティッシュなものとなっている。だからこそ桃の内面がほんの15歳の子供でしかないことなんてこれっぽっちも考えず、暴走しちゃったりするんだけど。

そんな百瀬の彼女である佳代も、友『情』が邪魔して騙されていることに気付かなかったり、愛『情』の性で客観的には明らかなダメ男である百瀬に依存し、あまつさえ尊敬したりするダメな人なんだけど、自分から離れてしまった百瀬への愛『情』をコントロールできずに暴走し、単にダメからイタイ領域まで転落してしまう姿は、正にライク・ア・ローリング・ストーン。文章だけで説明したらサイコホラーみたいなんだけど、陰惨な感じにならないのは、多分登場人物たちがリアルにダメなのに何処か憎めなくて愛らしいから。特に佳代が、妹にジェラシーしてスネたり、別れ話に耐えられずに駄々こねたり*8、無邪気なストーカーになったり*9する姿は、メンドクサイ女の最高峰なんだけど同時にすごくキュート。佳代を演じる田畑智子さんの中の上なルックス*10と、吉田監督特有の曖昧で(だからこそ)リアルな台詞まわしや演出によって、佳代というキャラクターがこの世界のどこかに実際に存在していて映画で描かれるようなダメな日常を暮らしているかもって気になる。デパートの化粧品売り場で会うかもしれないし、喫茶店で隣の席に座っていたかもしれない、中学の同窓会とかで再会するかもだし、そもそも自分に近い誰かや自分自身が彼女なんじゃないかって思えるくらいのリアリティ。

吉田監督は照明さんから監督になったっていう珍しい経歴を持っていて、前二作でも本作でも監督、脚本、そして照明でクレジットされている。監督や脚本と違って、普段映画を観るときは照明を気にすることはほとんどないけど、映画における空気感やムードをコントロールするのに照明はとても重要だと思う。本作は去年の11月に撮影されたらしいけど、映画前半のシーンの突き刺すような日差しの強さや熱気が伝わってくる一目で真夏だって分かる感じとか、逆に後半の冬の突き刺すような大気の感じとかは多分照明の手柄。

印象的なカットのとても多い映画だけど、ラストの朝日*11に照らされる佳代の顔(表情)のアップは特に素晴らしい。台詞は無いけど百瀬と佳代がこの先どうなるかが、佳代の表情だけで明確に語られている。ダメな男はダメな女にを許される。あるいはダメな女だからこそダメな男を許すのかもしれない。

*1:高岡蒼甫が演じる百瀬。通称モモちゃん

*2:田畑智子が演じる佳代

*3:小野恵令奈が演じる桃。通称はモモちゃん、もしくはモモ

*4:常にキャミソールとホットパンツの下着みたいな露出が多くて緩い部屋着姿で、肩紐がはらりとおちたり、耳打ちしたり、手握ってきたり、とにかく隙だらけ

*5:所謂ムラムラしちゃったってやつ

*6:撮影カメラに投影されている

*7:胸元、太もも、足とか。足に関してはバタバタさせるのを長回ししたり、画鋲踏ませてみたりで、監督のこだわりが感じられる

*8:ヤダヤダヤダって

*9:アメリ・・・。

*10:実際に中の上ってことじゃなくて、あくまでそういうイメージ。現実にいたら多分すごく美人なはず、女優さんだもの

*11:同じような角度からの太陽の光なのに、夕日には絶対見えないのがすごい