Kick-Ass

adf2010-12-31

eBayで買ったコスチュームを身に纏っただけのスーパーヒーローワナビーのナードの姿を通して、「スーパーヒーローとは何か」というテーマにまで言及する、スーパーヒーロー映画史に残るであろう大傑作。

本作で最も魅力的なキャラクターは、主人公兼狂言回し役のキックアスではなく、殺人術の英才教育を受けた11歳のコスチューム少女、ヒットガールであることは明白で、事実エンドロールの後に私の脳裏に残っていたのは、ヒットガールがパンクをBGMにギャング共を血の海に沈めていく光景だった。またスーパーヒーローに成りたいというキックアスの漠然とした願いとは対照的に、ヒットガールとその父親であるビッグダディには復讐という絶対的な目的があるため、この父娘の復讐劇が推進力となって物語は展開していく。キックアスには『スーパーヒーローになりたい』ということ以外何もない、しかしタイトルに冠せられているのは「ヒット・ガール」ではなく「キック・アス」であり、それは本作が復讐劇ではなくスーパーヒーロー映画であることの証明だ。

劇中でも言及されているとおりスーパーヒーローの条件は、悲劇的なトラウマを背負っていることでも、特殊能力を持つことでもない。理不尽な暴力や圧力に晒された他者を傍観することを良しとせず、正義のために立ち上がる意思こそが、スーパーヒーローの条件とされている。その意味では、コスチュームを纏ってチンピラの前に立ちはだかった瞬間からキックアスはスーパーヒーローだと言えるが、無敵の殺人術を操ってギャングを何人葬ってもビッグダディとヒットガールは復讐者ではあっても、スーパーヒーローではない。だからヒットガールとビッグダディのアクションシーンはヴァイオレンス&ゴア描写満載*1タランティーノ的(キルビル風)に演出されており、キックアスの活躍するシーンは実際には大したことをしていなくても格好良く*2描かれている。

現実の厳しさに晒され、一般人としての幸せ*3を経て、それでもキックアス(スーパーヒーロー)として行動することを決断するシーンはハートが震えた。

あとニコラス・ケイジさんが念願のマント付きコスチュームを着れて、すごく嬉しそうなのも良かった。絶対、家でたまにコスチューム着たりしていると思う。

*1:残酷描写の有無はアマチュアとプロの差を描き分けもあると思うけど、キックアスの最後の必殺技キックアスビッグバンアタック(勝手に命名)もゴア無しでスマートに描かれているのは監督の意図を感じる。

*2:BGMとか超クール。

*3:つまりガール、そしてファック