冷たい熱帯魚

adf2011-02-14

愛のむきだし」でその情念を炸裂させた、園子温監督の最新作!埼玉愛犬家連続殺人事件という実在する連続殺人事件をベースに、犬を熱帯魚に変えてエログロバイオレンス&黒いユーモアで味付けして生み出された、強烈な映画。

でんでんの怪演によって生み出されたシリアルキラー村田は、強烈な本作の中でも最も強烈な印象を残す、最も恐ろしいキャラクターである。私が村田に感じた恐怖は、決して未知のものではなく、目撃し出会ったことのある既視感の恐怖だ。村田の強引で自分勝手ながら、どこかキュートで器の大きさを伺えるキャラクターに私(と私を含めた観客の多く)は出会ったことがあり、実際に存在する恐怖に身を震わされるのだ。「カンブリア宮殿」に出演して自前の経営哲学とやらを振りかざす社長たちと、フーターズのようなコスチュームに身を固めた若い女性従業員の前で「今日やることは今日やるー!」と元気よく叫ぶ村田の姿はダブってしまう。また従業員を「いますぐ、ここから飛び降りろ!」と恫喝したことを自慢気に語る居酒屋チェーンの経営者と、社本を「女房と娘のことを忘れるなっ!」と恫喝しこれまでに何人のボデーを透明にしたかを自慢気に語る村田の間に、本質的な違いを見出すことは難しい。経営者たちは実際にボデーを透明にしたことなど無いに違いないけれど、職を失った従業員とその家族がどのような運命を知りながら解雇したり、取引先が破産することを知りながら不公平な取引を強引に進めたりした経験は、多かれ少なかれあるはずだ。私自身も学生時代、電気屋でバイトしながら東京に進学した孫と連絡を取りたいだけの老人に必要以上にハイスペックなパソコンを勧め、彼らの少ない年金をむしり取った経験があり、今ではもっとスケールが大きいけれど、ほとんど同じような仕事で日々の糧を得ている。

我々は自分達が知るよりも遥かに冷酷で、より冷酷であればあるほど成功者として君臨できるのが世界だと思い知らせてくれる素晴らし酷い映画。