The Town

adf2011-03-06

ベン・アフレックが主演、監督、脚本にもクレジットされたクライム・サスペンス。脚本、演出、演技と全てがハイクオリティでありながら、ベン・アフレック自身のバックグラウンドへの個人的なエモーションにも溢れた素晴らしい映画。

ファーストルックの地味さとは裏腹に、カーチェイスやガンファイトといった派手なアクションシーンも多く、しかもどのシーンもよく考え抜かれておりクオリティが高い。しかし本作の動的な見所はチーム作業として描かれる銀行強盗のディテールであり、ケイパー・ムービーとしての魅力にあると思う。完全に役割分担されたチームが、理論と経験に裏打ちされた最も効率的な手法で行われるチーム作業は、それ自体クールであり美しい。たとえ犯罪であっても。

本作は、タウン*1に囚われた一人の男がタウンから決別しようとする姿を描いた物語のように見えるが、実際はタウンと外の世界を繋ぐ橋の上で揺れる男の物語であると思う。おそらくベン・アフレックのタウンに対する個人的で複雑なエモーションが投影されたためだろう。若き日の彼はプロホッケープレイヤーとなることでタウンを出ようとした、それは何も持たないダグが銀行強盗になるしかない未来から逃れる唯一の選択肢だったからに違いない。しかし暴力事件を起こしてその唯一のチャンスを自ら棒に振り、タウンの象徴たる銀行強盗稼業*2に手を染めることを選択したのもまたダグ自身である。

仲間や自分の得意な仕事*3を捨てることはできないと半ば諦めていたダグは、クレアと出会ったことにより再びタウンとの決別しようとする。それは自分とタウンを捨てた*4母親への思いの現れであり、彼は今度こそ愛する人と一緒にタウンからを出ることを願ったのだ。だから母親についての真実を知った後の彼が、ラストで下す決断と行動*5は、タウンからの決別とタウンを受け入れようとすることの間にあるものだと思う。

役者陣は誰もが素晴らしい演技を見せていて、ダグの幼なじみで現在の仕事仲間であり親友役のジェムを演じたジェレミー・レナーの血と暴力に飢えたトラブルメーカーの目*6のリアルさや、『花屋』役のピート・ポスルスウェイト*7の枯れたでも現役の悪党っぷりとか、いちいち素晴らしい。特に、個人的な好み*8もあり、ワンシーンのみにしか出演しないのに、そのワンシーンに様々な意味を込める*9ことに成功しているクリス・クーパーの含みを持たせた演技はベストアクトだった。

結末については賛否あるかもしれないけど、これが監督ベン・アフレックの作家性なんだと思うし、個人的には好きなエンディング。

*1:単に故郷の街というだけでなく、銀行強盗の息子であることも含めた彼のバックグラウンド全体として

*2:皮肉にも彼は銀行強盗が得意なのだ、天才的に。

*3:しかも稼げる

*4:と信じていた

*5:警察やFBIを出し抜き続けた彼の能力があれば彼女と伴に計画を実行することは可能だったはず

*6:でもどこか哀しげ

*7:残念ながら本作が遺作

*8:私は無類の、クリス・クーパーが演じる堅物の父親好きなので

*9:後の『花屋』のシーンで本当の意味が見えてくる構成もグレート