Hereafter

adf2011-04-08

ここ数年映画製作のペースが上がっている恐るべき80代、クリント・イーストウッド監督の最新作。震災の影響により日本での上映は残念ながら期間途中で中止となってしまったが、震災前に鑑賞。確かに、冒頭の津波のシーンは観客にトラウマを与えるには十分すぎる程のクオリティであり、あまりにも巨大で人智を超えた災害を前にした人は意外な程静か*1で、気付いて逃げ惑う時には既に手遅れであるという描写が如何にリアルかは皮肉にも今回の震災が証明してしまった。ただ本作はデザスタームービーではなく「救い」をテーマにしたヒューマンドラマであり、だから今は無理でも数年後に尚「救い」を求める多くの人々こそ観るべき映画なんじゃないかと個人的には思えた。

冒頭の津波により臨死体験を経験したフランス人ジャーナリストの女性、双子の兄を不慮の事故で亡くしたイギリス人の少年、そして死者の声を聞くことのできる元霊能者で現労働者のアメリカ人の男、年齢も性別も国籍も異なる3人がそれぞれ様々な形で死と接して、救いを求める姿が描かれる。あるものは地位と名誉を取り戻すための仕事に、あるものは霊能力者たちに、そしてあるものはイタリア料理教室*2で出会った魅力的な異性に、救いを求める。でも求めたところに彼女ら/彼らの救いはなくて、結局は女性ジャーナリストのマリーにとっては地位や名誉とは無縁の使命が救いとなり、イギリスの少年マーカスにとっては霊能力者ではなく母親が、そしてアメリカ人霊能力者ジョージにとっては(今度こそ多分)運命の女性との出会いが救いとなる。

これまで周囲から救いを求められる存在であったジョージが、結局誰一人救えず、しかし最後に自ら他人に救いを求めて映画は終わるので、本作は彼の物語だ。あの過剰なエンディングは、他者に救いを求めることの喜びを表しているのだと思った。

*1:信じたくないあまり感覚がマヒしてしまうのだろう

*2:目隠しして味見をし合うシーンは、80代の爺さんの仕事には思えないくらいエロチック