X-Men: First Class

adf2011-06-23

『キックアス』で男を上げたマシュー・ヴォーン監督の最新作は、マーベル・コミックの看板タイトル『X-メン』のプリクエル!ブライアン・シンガーが二作目までを監督したこれまでのシリーズの前日譚にあたり、プロフェッサーXとマグニートの出会いから袂を分かつまでを描く。

ヴォーン監督のアメコミへの深い愛は本作でも健在で、キューバ危機が舞台に設定されている*1のは大作感を出すためのハッタリにすぎず、X−メンのファンが望むものを望む形で観せてくれる正しいアメコミ映画となっている。前シリーズでは肝心なところで役立たずに甘んじていたプロフェッサーXは、本作では軽薄で未熟ながら大いなる理想を持った人間味溢れる若者であり、その殆ど最強の能力を遺憾なく発揮して活躍する。前シリーズでは主にそのルック*2に対して不満が寄せられたマグニートも、本作では若く逞しい肉体を持つマイケル・ファスベンダー*3が演じていることで、ファンが待ち望んだ若くエネルギッシュなマグニートの姿を見ることができる。特に序盤、初期007のジェームス・ボンドを思わせるスタイリッシュなスーツに身を包み復讐のために孤独にナチ(残党)を狩るシークエンスは超クールで、"ナチキラー"マグニートをメインでスピンオフ*4を1本撮るべきだと思った。

"ナチキラー"のシークエンスに限らず、本作は初期(60年代の)007へのリスペクト*5に満ち溢れている。特に悪のミュータント軍団のヘル・ファイア・クラブはそのルック*6やメンバー構成*7、設定*8まで初期007の悪役そのままで、ヴォーン監督はやはり信頼できる男だと思った。

多くのアメコミがヒーローの物語であるのに対して、『X-メン』はミュータント達の群像劇である。だからヒーローとは正義とは何かをヒーロー自身が自問する他のアメコミ作品とは異なり、『X−メン』はそれぞれのリーダーの掲げる「理想」の対立をテーマにドラマが繰り広げられる。もちろんプロフェッサーXとマグニートの「理想」の対立が軸となっているのだけれど、プロフェッサーXの掲げる「理想」がこの時点では恵まれた育ち(外見)故の正論にしか見えなかったり、マグニートの掲げる「理想」がナチスのそれと重なるように描かれていたりして、脚本&演出の巧みの技*9を感じた。

テーマを重視した分派手な見せ場は意外と少なくて、最もテンションが上がるのがチャールズ&エリックのミュータント達のリクルーティングと、X-メン達が特訓するシークエンスだったので『キックアス』のギミック満載なアクションを期待すると肩透かしかも。本作をヤングX−メンにリブートされたシリーズ1作目として考えるなら、アクションについては次回作以降*10に期待かな。

本作の3人目の主人公にして、周囲が望む姿と本当の自分の姿との葛藤に悩むガールのレイヴン/ミスティークは、妹キャラとしてチャラ男のお兄ちゃんに嫉妬したり、初めて同年代のミュータントと会って超はしゃいだり、健康的な色気で童貞ボーイをたぶらかしたりと大活躍。でも彼女の主にロマンス的な心の動きが若干雑というか分かりづらく描かれていて、彼女の下す最後の決断は割りと唐突に感じられた。『キックアス』のときもそうだったけど、女子の色恋の心情についてヴォーン監督はウジウジ考えたりしないみたい。彼にとってガールはさしたる理由も無くいつの間にか男を好きになる存在なのかもしれない。これがスーパーモデルを嫁にしちゃう男の発想か!

*1:ウォッチメン的アプローチ

*2:名優イアン・マッケランが重厚に演じるも、見た目はコミックに描かれた磁界王の姿からは程遠いヘルメットをかぶった痩せた爺さんだった。

*3:『イングロリアス・バスターズ』で元映画評論家のドイツ語に堪能な軍人を演じた。本作でもドイツ語を話すシーンがあるけれど、数は数えないから安心。

*4:wikipediaによると実際に『マグニート』というタイトルのスピンオフ企画は進んでいて、最終的には本作に企画ごとマージされたらしい

*5:下着姿で潜入捜査するボンドガールもちゃんといます。この場面のローズ・バーンの普通な感じの下着姿が実は一番セクシー。普通の方がエロい説

*6:フルCGみたいなエマ・フロストの美貌も素晴らしいけど、個人的にはもみ上げ&レトロスーツに身を包みノリノリでザ悪の首領を演じるケビン・ベーコンが白眉!

*7:悪のボス&セクシーな女(ボスの愛人)幹部と手下達

*8:アジトが潜水艦!

*9:クライマックスの脳天を打ち抜いて「二重に殺す」シーンも素晴らしい

*10:既にプロジェクトは進んでいるようだし