Crazy, Stupid, Love.
今アメリカで最も旬なコメディアン、スティーヴ・カレルの最新作は『フィリップ、きみを愛してる!』のグレン・フィカーラとジョン・レクアが監督したロマンティック・コメディ。なんだけれど普通の男女のカップル間のロマンスだけでなく、夫婦や親子といった家族間の関係性を中心に彼らに関わる全ての人々の愛の形を描いた広い意味でのラヴ・ストーリーだった。
極めてスローなテンポで始まる本作は、「アメリカン・ビューティー」がそうであるようにシニカルで過激なムードを携え、その中でスティーヴ・カレルはいつもの彼の姿からはほど遠い魂の抜けたかのような中年男を淡々と演じている。しかし本作のもう一人の主人公であるライアン・ゴズリング演じるジェイコブの登場によって、スラップスティックなシーンや下ネタの数々が増え、作風もいつものスティーヴ・カレルの映画らしさを急激に増加させるに至る。そして怒濤のどんでん返し&ケイオス*1を経て、終盤に驚くほどハートウォーミングでスィートなホームドラマが待っている。原題の通りクレイジー、スチューピッド、ラヴにやんわりと区切ることができ、同時に全ての要素を絶妙なバランスで配合したとても贅沢な作品。
贅沢なのは役者陣のラインナップについても同様なんだけど、どのキャラも決して無駄遣いされていないのも素晴らしい。彼ら以外には本作を成立させることができないと思えるような主役二人の絶妙な配役、特にあの役を全く嫌み無く演じることのできるライアン・ゴズリングの実力を見せつけられると、彼が売れっこなのは当然なのかもと思えた。あと、妻を演じるジュリアン・ムーアの加齢によってより魅力的な女性となったことが一目で感じられる姿や、エマ・ストーンの子供っぽさと母性が同居したような表情、ベビーシッターの少女*2の弾けっぷりと女優人の配役もピッタリ。でも基本的に男性目線から作られた本作において、第三の主人公として、ロビー役のジョナ・ボボが起こしたミラクル*3が一番ハートに届いた。あとケヴィン・ベーコンがいつもの役*4を演じていたこともここに記録しておきたい。
それぞれの登場人物が主役として十分機能する本作にあっても、やっぱりベストなシーンはスティーヴ・カレル&ジュリアン・ムーア夫婦のシーンで、あの庭から電話で伝えられるボイラーの直し方は世界で最もロマンティックなDIYだと思った。