恋の罪

adf2011-12-25


園子温監督最新作。「冷たい熱帯魚」で埼玉愛犬家連続殺人事件をベースに新しいノワール映画を創り出した同監督が、今度は東電OL殺人事件をベースに「女」をテーマ*1に紡ぐ衝撃作!

冷たい熱帯魚」で、でんでん演じる村田という男の過剰な行動力に引きづり込まれた主人公が『堕ちていく』姿が描かれたのと同様に、「恋の罪」では冨樫真演じる美津子*2に魅せられた(神楽坂恵演じる)主婦いづみが『堕ちていく』姿を描いている。ただ「冷たい熱帯魚」では、村田の引力に引かれることで主人公の社本(吹越満)が殺人者となったのに比べ、本作のヒロインいづみにとって美津子はきっかけの一つに過ぎず、いづみを「娼婦」として覚醒させるのは彼女自身の業である点が徹底的に異なっている。水野美紀演じる和子についても、この事件に出会う前から既に不倫に溺れていて、事件の被害者にシンパシーは感じつつも直接的に影響を与えることも与えられることもなく物語は終わってしまう。

おそらく園監督は他者に堕とされるのではなく自ら堕ちていく女性(に惹かれ)を描きたくて本作を作り出したのだろう。ただ関係性(コミュニケーション)がドライヴしていくのがメインではない分、観客が登場人物に感情移入するのが難しい構造になっていて、(時間をかけて描かれないこともあり)水野美紀さんの役は不倫テレフォンセックスが単に好きなだけの女でしかなく。神楽坂恵さんにしても、頑張り(本作にかける思い)は画面から痛いほど伝わってくるものの、実質的な主役を担うには力不足な感は否めなく、彼女が何故あそこまで堕ちてしまったのか(堕ちなければならなかったのか)はその演技からだけでは伝わってこない。もっとも彼女の肉体の持つ圧倒的な説得力*3の前には、小手先の演技力など無意味なのかもしれないけれど。

そんな中でも、冨樫真さんはエキセントリックを通り越して殆ど人外に近い役を強烈な女優力で演じ切っており、主役3人の中では最も印象的であるといえる。ただ彼女の母親にして殆ど妖怪な老婆を演じる大方斐紗子の文字通りの怪演や、社本なみにスパークする津田寛治のパワー、キングオブ間男な児嶋一哉のリアル人でなし感といった、脇役陣が強烈すぎて相対的な印象は薄くなってしまったのが残念。

あと、ソーセージの件は品が無くて素晴らしい演出だと思うたよ俺は。

*1:監督曰く「女性賛歌」

*2:東電OL殺人事件の被害者がモデル

*3:あんなエロいボデーの女が性的に解放されたがっていないわけがない