ヒミズ

adf2012-01-28


不条理だからこそ多くの読者に指示された原作漫画に、不条理な作品ばかりがフィルモグラフィーに並ぶ園子温監督が、あえて希望というこれまでとは正反対のメッセージをぶち込んだ作品。監督自身がインタビュー等で応えているとおり、震災後に希望を選ぶことしかできなかったという言葉に嘘はないだろうけど、同時に『園子温ヒミズ』から想像される映画から距離をおき、予定調和を破壊することを選んだ極めて打算的なクリエイターの判断も垣間見える。

また本作は『今』というタイミングに対して極めて誠実に向き合った作品だとも言える。変更された夜野正造達*1の設定や、度々挿入される被災地のカット等の震災絡みのシークエンスは、作品の完成度を下げてしまっているのだけれど、監督は作品としての質を犠牲にしても(『今』だから伝えたい)メッセージを伝えることを選んだのだと思う。最高に新鮮な卵が手に入ったシェフが、得意のオムレツではなく、卵掛けご飯で振る舞うことを選ぶように。

ただ、あのラストにするなら、主人公は茶沢さんにすべきだとは思う。応援される側にとっての(周囲の)応援の無力さという原作のテーマに対して、本作のラストに込められた応援は無駄ではないというメッセージは応援する側の勝利であり、自力で何かを成すわけではない応援される側は*2敗北していると言える。だから応援する側に感情移入させないとカタルシスや共感が得づらい構造にあるように思える。

まあ、主人公の住田を演じた染谷将太さんがあまりにも素晴らしすぎ*3た故の結果なのかもしれないけれど。あと「いつ俺に、茶沢さんというか二階堂ふみさんが応援しに来てくれるんだ」とも思いました。

*1:園子温的「荒川アンダーザブリッジ」な住人達

*2:その結果の正否とは関係なく

*3:叶わぬ未来について語り合う「25時」なシーンの役者力!