J. Edgar
クリント・イーストウッド監督の新作にして、ダスティン・ランス・ブラック*1脚本の新作でもある本作は、嘘の呪縛に捕らえられた一人の男が嘘から開放されるまでを描いた映画だった。レオナルド・ディカプリオがFBI初代長官エドガー・フーヴァーを演じる本作は、アメリカの歴史の裏側や真実を描いたジャーナリスティックな作品ではなく、クローゼット・ホモセクシュアルの彼の内面を追った極めてパーソナルなものとなっている。
エドガーの口から語られる言葉は終始誇張と嘘に塗れていて、真実との境界は際限なく*2曖昧なものだ。 母からの抑圧により生み出された偽りの自分から母の死後も逃れることができなかったエドガーが、晩年*3に長年連れそった最愛のパートナー*4の前で初めて嘘から解放されるシーンは、淡々と静かに語られるからこそ、逆に胸を討つ本作のクライマックスだった。
ラストに披露される彼の寝室に並ぶ銅像の数々は、偶像を作り上げることでしか自身のアイデンティティを保つことのできなかった、彼の心の中そのもののようで悲しい。